ACTION
教会を救うには
スリークロス教会は
今、危機状態に
1969年初頭に制定された町の計画にはこの教会の置かれている場所の保存条項内に“現存しているこの建物は建築学的にみて重要であり建設当時の外観、内装及び意匠などについての改造、修繕やペンキ塗装などはしてはいけません。小規模の修理においても建築委員会の承認が必須”と明記されています。



教会の劣化は
広範囲に及んでいます
正式な保存条項があるものの、これは今の教会の状態を反映しているものではありません。教会の主たるホールおよびエントランスロビーの内部は当時のままであるものの、ファサードの劣化は著しく、特に教会の南側の湿気による傷みは床から天井まで及んでいます。
教区民は修理の為の費用を生み出す必要に迫られています。学際的な保全の専門家が原因を特定し、問題は構造的かつ建築材料にありと判断して保護の必要性を訴えています。そして適切かつ十分な現実的解決方を計画し、試みました。しかしながら、Imatra教区民行政部は修理費用の捻出ができず外部の支援を仰ぐ運びとなりました。
教会には修理が必要です
このスリークロス教会はル・コルビュジエの代表作と言われるロンシャンのLa Chapelle Notre Dame du Hautと比べられてきました。残念ながら今ではこのアアルトの傑作建築も湿気による問題に直面しています。教会の白のファサードは松の幹の間から輝いて見えるのだが近くに寄るとその素晴らしさは薄れてしまいます。
教会が建設されたのは1957年でそれ以降ファサード部分は北欧の早いサイクルで繰り返される氷結と融解にさらされ続けてきました。教会の塔の部分は建設当時には白色で美しかったですが、劣化が進んだため1978年コンクリートの吹付け作業を行いました。最近まで当初滑らかな下塗りがなされていたファサード部分の、再下塗りおよび再塗装が行われてきました。
アルヴァ・アアルトは銅板をはった屋根の下の空間を次の様に説明した“空気の断熱層”です。しかし換気は機能ませんでした。3つのホールに使用した厚みの薄いコンクリートのボールトから熱が逃げだし、そのために氷結と融解が周期的に起こり続けました。ファサード東側の曲線部分は冬になると毎年氷の彫刻が出現する事態となっています。
銅葺きの屋根は雨漏りし、銅のひさしは変形し、ファサードのプラスターは剥げ落ちこれは全て湿気が原因です。板状の銅の屋根のといの下からむき出しのレンガが見えます。ファサードの外観維持のための修理は年中行事であると教区員の聖具保管係は言いますが湿気の問題の解決にはなりません。




いままで何が
なされてきたのか?
大規模の手直しは行われませんでした。そして修理、修繕はファサードには行ったものの修正は僅かでしかありませんでした。例えば、当初から使用されていた縦樋は修理が施され新品と交換され、西側ファサードに設置された入り口のキャノピーは作り変えられ、また屋外の照明装置は取り除かれたなどでした。
壁にひび割れ、軒の銅の樋の変形を目の当たりにして教区員が動いたのが2013年のことである。この問題解決にあたり保存の為の諮問グループを立ち上げ劣化調査及び対策を施す試みを2013年から始めることとした。2013年から2017年の間教会の状態を把握し、歴史的な観点からの調査がおこなわれ、且つ計画上の施策が有効可否か判断するために試験的な修理が施された。
2016年から2018年には地下に置かれた台所とトイレの換気と湿気問題の解決のための修理が、地下部分、西と南側の入り口、そしてコートヤードの雨樋などの部分に対して行われた。
調査の結果、湿気問題が建設当時からある排気システムにもある程度原因があることが判明した。それは内部の空気が教会ホールから直接屋根に向けて漏れ出ることにあるのだと。すなわちホール内の空気の通り道が不十分である上、当初からの空気排出システムが“30年以上もの間”機能していなかったのだと、インタビューに対して教区員の聖具保管者Pekka Tirronenは答えた。
これから何をすれば教会を救うことができるのであろうか?
教会存続のためには屋根の修理は必須である。気候変動により将来のメンテナンスを行うのは容易なことではありません。
屋根の軒と樋は全体的な修理が必要であり排気機能の強化もおこなわれなければいけません。建設当時のディテールをもとにその後付け加えられた変更は建物とその構造機能に対しての妥協案でしかなかったことを考えた上で再建します。
屋根が元に戻った時点で、修理が必要なレンガ作りのファサードの修理を行うこととします。当初からの排気システムは新しい物に変更、これに熱回収用のユニットも取り付けるものとします。
2020年1月26日
建築家 Niina Svartstrom

